蜻蛉の手帳

北海道東部を拠点に、昆虫のトンボを中心とした観察記録・写真を掲載しています。 なお、某有名文房具とは一切関係ございません。

2020年08月

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コオニヤンマ♂

Canonのfisheye zoom 8-15mmを一昨年に購入しましたが、購入にあたって撮りたいと思っていた構図、と言うよりもその構図で撮りたいがために購入を決めたのが、広大な湖を背景に静止するコオニヤンマの姿です。
昨年はレンズに慣れるので精一杯でしたが、一年色々試したお蔭で扱いが少しだけわかり、加えて今年はコオニヤンマが比較的多いのも幸いして、思い描いていた姿を納めることが叶いました。

完璧とは行きませんが、憧れの一枚が撮れると愛用のレンズに対する愛着が増しますね。

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コオニヤンマ♂:ルリイトトンボ♂を捕食

そして、広角レンズを装着している時に限って、マクロレンズ撮影向きの瞬間が訪れる(その逆も然り)のは『撮影家あるある』なのかもしれませんが、今回もfisheye zoom 8-15mmを装着している時に限ってコオニヤンマがルリイトトンボを捕食する瞬間に遭遇しました。
なので、これは苦し紛れのトリミングです。 

しかもこの後の帰りがけには、別の個体がキベリタテハを捕まえた瞬間にも遭遇したのですが、 そのような面白い行動を見せてくれる時に限って、すぐに飛び去ってしまうというのもよくあるパターンですね。


弟子屈町 2020年8月27日 

ルリイトトンボとしばし戯れてみました。

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ルリイトトンボ♂

いざ相手にすると、結構動き回るので単体での撮影をすんなりとさせてくれません。
今回はあえてイソツツジ(エゾイソツツジ)に止まっているところを狙ったのですが、この植物は道内の特に湿地や高山帯で見られるので、北国の水辺らしい青い妖精のいる風景になりました。


弟子屈町 2020年8月24日

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ヒメアカネ♂

北海道内では、生息地が少し限られているヒメアカネを見に行って来ました。

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ヒメアカネ♂:ガガンボの一種を捕食 

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ヒメアカネ:交尾 

ヒメアカネは特に湿地環境を好むアカネ属(赤トンボ)ですが、湿地ならばどこでも良いという訳でもなく、植物がそれほど高く繁っておらず、泥がある程度上から見える様な湿地、つまりは放棄水田の様な湿地化して間もない環境が好みの様です。

道内の特に道東では湿地環境に事欠きませんが、『湿地』と一口に言っても実は意外と多彩です。
ミズゴケが絨毯の様に広がる湿地なのか、厚い泥炭の上にカヤツリグサ科やイネ科の植物が低く茂っているのか、あるいは背丈を越すヨシの群落に覆われているのか、浮島があるのか、水量の多・少など、この数年に見て来た道東の湿地環境だけでもかなり多様性に富んでいます。
かつて活動していた本州とは状況が異なる場面も多いので、『こんな環境にこのトンボがいるのか!』と驚く事は日常茶飯事です。

Ezotombo1
エゾトンボ♂:パトロール飛翔

Ezotombo2
エゾトンボ♀:休止

忘れがちながら、このエゾトンボも湿地環境が好きな一種です。
道内では、車での移動中に100mごとにフロントガラスにぶち当たるほどたくさんいますが、その理由の一つも湿地の多さが関係しているのでしょう。


Sawagikyou
湿地でよく見られるサワギキョウ

湿地・湿原という環境は、自然環境の移り変わり(遷移)においてはとても不安定で、本来ならばすぐに乾燥化して草原や林になるのが常です。
しかし北海道は、寒冷な気候のため枯れた植物が分解されにくく、特に淡水域ではそうした植物が腐らずに積み重なって分厚い泥炭を形成しています。結果として土壌の生成も遅くなるだけでなく、夏場でも高温の日がわずかなので、乾燥化が非常に緩やかになります。その上、ある程度遷移が進んでいたとしても、大雨や嵐で川の水量が増せば撹乱され場合によっては振り出しに戻るので、より湿地としての期間が長くなります。

改めて、日本で北海道にのみ or 特に北海道に多く分布するトンボの生息環境を確認してみると、湿地や湿原・高層湿原となっています(カラカネイトトンボ、イイジマルリボシヤンマ、エゾアカネなど)。
本来ならばすぐに消えてしまう環境が気候条件によって維持され、しかも広大な面積が確保されているという事が、北海道特有の種が生きながらえて来た理由に関わっているのかもしれません。


釧路湿原 2020年8月23日 

Ezotorikabuto
エゾトリカブト

北海道では『お盆を過ぎたら秋』とよく言われますますが、本当にその通りで、お盆を境に朝晩の気温が涼しくなり、秋の花も咲き始めました。
猛毒で有名なトリカブトも、北海道では秋の花です。

Mutuakane
ムツアカネ♂

トンボでも秋の気配が既に漂い始めており、『黒い赤とんぼ』ことムツアカネも姿を現しました。
いつも見てもこの渋い黒色は良いものです。
体は黒色ですが白い場所が好きな様で、白色の虫網を地面に置いておくと高確率で止まりに来ます。

(こんな感じです↓)
Mutuakane2
 
Ooruribosi
オオルリボシヤンマ♀(青色型):産卵の合間の小休止
Yotubosi
ヨツボシトンボ♂

ですが、日中は暑いので夏を代表するトンボ達もまだ健在です。
ヨツボシトンボに至っては春先から現れるので、なんとも息の長いトンボですが、流石に翅がボロボロの個体が多くなって来ました。

Sesuziito1
Sesuziito2
セスジイトトンボ♂:トビケラの一種を捕食(下)

もう一種、こちらも夏の印象が強いセスジイトトンボです。
北海道では生息地が限られているので、なかなかお目にかかれませんが、青色系のイトトンボが多い北海道の中では、淡い水色がどことなく夏の雰囲気を感じさせてくれます。

今年はいつもよりも観察に出る機会が多いのですが、それでも季節は矢継ぎ早に進んで行いくので、気が抜けません。


阿寒町 2020年8月22日

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イイジマルリボシヤンマ♂

満を辞して、イイジマルリボシヤンマを見に行って来ました。
今回訪れたのは、これまでに何度か下調べをしていた有名な場所なのですが、実際に生きて飛んでいる姿を見ると、感動と共に『本当にいた』と安心するものです。

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♂の縄張り争い 

個体数はそこそこでしたが、縄張り争いを繰り広げつつ、風に漂う姿も見られたので行動をよく観察する事ができました。
生息環境からして、同属のオオルリボシヤンマやルリボシヤンマもいるかと思っていたのですが、両種の姿は全く無く、イイジマルリボシヤンマだけだった事は面白い点でした。

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イイジマルリボシヤンマ♀(緑色型:上、青色型:下):産卵

あわよくばと期待しつつ、意外にもすんなりと拝む事ができたのがこちらの産卵行動です。

イイジマルリボシヤンマの生息環境は高層湿原で、一見するとイネ科やカヤツリグサ科が繁茂する草原の様に見えるのですが、地面は湿地あるいは浮島で、表面にはミズゴケ類やモウセンゴケ、タヌキモなどの湿性植物が自生して大量の水分を含んでいます。イイジマルリボシヤンマのメスは、草のわずかな隙間をかき分けて最下層の湿性植物まで降り立ち、翅が草にぶつかったりモウセンゴケに触れる事も厭わずに産卵を行なっていました。

贅沢を言うと、図鑑に載っている様な真横からビシッと決まった姿を撮りたいところでしたが、何しろ下の写真の様な状況だったので、メスの全容を捉えるだけでも一苦労でした。

Iizima5
イイジマルリボシヤンマの産卵風景(中央にメスがいる)

こんな状況ですから、湿原内を探索している最中に足元からメスが飛び上がるという事もしばしばで、トンボの翅が草にぶつかる時の『バチバチッ』という独特の音に神経を集中させながらの探索となりました。
トンボ観察で、聴覚をフル活用するというのはなかなかありませんね。

Karakaneito
カラカネイトトンボ♂

Mizutombo
ミズトンボ

他にも、北海道の高層湿原ではお馴染みのカラカネイトトンボが多く見られ、ミズトンボという名のランの一種まで自生していました。何から何までトンボ尽くしですね。

Higuma
ヒグマの足跡

今回の観察では途中から友人が合流したのですが、現場まで先導している時に、友人が真新しいヒグマの足跡を発見しました。
ここで普通なら、すぐに撤退するのが常識のある人の行動かもしれませんが、友人と二人して『まあ、道東なら仕方ないよね』と日常会話の様に言葉を交わしつつ、観察を強行した事を振り返ると、北海道暮らしが板に付いて来たのかなと思うこの頃です。


別海町 2020年8月16日 

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